第1章 自閉スペクトラム症のある人への精神療法的アプローチの可能性

以下の文章は、倉光 修 監修・渡辺慶一郎 編著『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』(金子書房,2021年)をスタッフが研修のために要約したものです。当院院長が第3章を担当している書籍です。出版社の許可を得てホームページ上に掲載しています。
また、発達障害で困っている皆さんの参考になるよう、当院で行っていることなどを追記しています。ぜひ、ご一読ください。

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とある自閉スペクトラム症を持った5歳の子供の記録で、「周囲の人々に全く興味を示さなかった」とされています。他児が近づいてきても「スッと離れる」「人が尋ねてきても無関心」で、一片の注意もむけなかったそうです。一方で、彼は記憶力に優れ「百科事典のものすごい数の絵を知って」いました。また、「丸い物体をクルクル回すこと」に熱中し、それを妨害されると「癇癪を起こし」たそうです。「積み木をいつも同じ面を上にしていなければ気が済まない」「ボタンを同じ順序でかけたい」など、その子なりの「こだわり」もあったといいます。

自閉スペクトラム症のある子供たちは、「まなざしが合わない」「常同行動が見られる」「相手が聞いていなくても平気で話し続ける」「他の子供と一緒に行動することが出来ない」等の特徴を示すことがあるとされています。しかし、知能は「独創的で創意に満ちている」「自閉症児の持っている興味は、限定され孤立しているが、すばらしく発達していく」ともあり、自分なりのやり方で難しい計算問題を解いたり、詳細な絵画を描いたりする子供もいるのです。

そういった大きな「能力」として特徴を持つ一方で、歳を重ね社会に出ると、それらの能力を発揮してうまく立ち回るといったことが出来なかったり、周囲との協調的姿勢が取れず、企業などで勤務することで困難を抱える方がいらっしゃいます。
実際、知的に高い学生(教員)の中にも自閉症の特性があって苦しんでいる方がかなりおられます。なかには懸命に努力を重ねて仕事を熟し、働かれている方もいるでしょう。一方で、就職できなかったり、転職を繰り返したり、雇い止めになったりして自宅に引きこもりがちの人も居ます。医療では認知や行動がわずかでも改善され、周囲の人々とともに苦しみだけでなく楽しさやいたわり、生きる喜びを感じながら暮らしていくことに貢献したいと考えています。


当院では職場で不適応となり、抑うつ状態で休職された方の復職支援(リワーク)を行っています。単にうつの症状の改善を目指すだけではなく、自分の発達特性、社会スキルを振り返り、職場や家庭でより自分らしく、生きやすく生活できるようになることを目指しています。

また、発達障害を抱えながらも就労を目指す方を支援するデイケアも運営しています。就職活動が上手くいかない、他者との関わりが上手くいかず社会に出ることが怖い、そうした同じ悩みを持つ仲間たちと、社会生活への一歩を踏み出すためのサポートを行っています。

 

 

2022年06月28日