第8章 新しい取り組みと自閉スペクトラム症 ①世田谷区受託事業「みつけばルーム」の取り組み
以下の文章は、倉光 修 監修・渡辺慶一郎 編著『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』(金子書房,2021年)をスタッフが研修のために要約したものです。当院院長が第3章を担当している書籍です。出版社の許可を得てホームページ上に掲載しています。また、発達障害で困っている皆さんの参考になるよう、当院で行っていることなどを追記しています。ぜひ、ご一読ください。
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東京都世田谷区にある「みつけばルーム」では、発達凹凸特性のある若者を対象に多彩なワークショップを開催することで、生きるヒントになる「ナニか」をみつける機会を提供しています。みつけばルームの大きな特徴は、自閉スペクトラム症などの発達凹凸特性のある成人当事者がサポートを行っていることです。このように、同じような境遇にある仲間がサポートを行うことを「ピアサポート」といいます。
みつけばルームでは、利用者の参加動機に働きかけ、活動のなかで「安心する」「楽しい」という気持ちを喚起させるために、マニアックで知的好奇心をくすぐるワークショップが開催されています。ワークショップの目的は、楽しいと思える時間のなかで、自分のペースで気持ちを表現し、それを他者と共有し合う経験をすることです。このような経験を通して自分を発見し、理解することで、新しいことにチャレンジする自信や元気を育むことができます。利用者にアンケート調査を行ったところ、みつけばルームが単なる物理的居場所ではなく、心の拠り所となる関係性や安心感があり、ありのままの自分が受容される「心理的居場所」としても機能していることが示唆されました。また、職場や家庭など日所生活の場においても自分の思考や感情、行動にポジティブな変化があり、新しいことへのチャレンジがみられています。
近年、ASDなど発達凹凸特性を機能不全や障害ではなく、認知スタイルの違いとして捉える「神経多様性(neurodiversity)」という考え方が広まっています。例えば、ASD者は対人コミュニケーションや社会性の困難さがあるとされていますが、それはASD特性に合わないスタイルを求められているためで、ASD者にはASDの流儀が存在し、それを共有することができる関係やコミュニティにおいては、共感を伴うコミュニケーションが成立し、活性化するのです。
当院の発達障害ワークサポートプラザでは、自分と同じような困りごとや悩みを抱えている仲間と交流し、自己表現する経験を通して、自分の特性と向き合い、その人らしく生きられるようになるお手伝いをしたいと考えています。