第5章 自閉スペクトラム症のある人への精神療法の基本姿勢―事例からの検討―

以下の文章は、倉光 修 監修・渡辺慶一郎 編著『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』(金子書房,2021年)をスタッフが研修のために要約したものです。当院院長が第3章を担当している書籍です。出版社の許可を得てホームページ上に掲載しています。また、発達障害で困っている皆さんの参考になるよう、当院で行っていることなどを追記しています。ぜひ、ご一読ください。
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今回紹介する事例報告に書かれている方は、学習成績は良好ですが、他人が何を考えているか理解出来ない、自分の考えやイメージを持っていても言葉を組み立てるまでに時間が掛かる、それに伴って交流を避ける、一般的な“正しい”基準と自分の思いとの違いに混乱するといった特徴が見られ、大学進学後に困難さが生じました。自分の考えが脅かされる怖さや怒りが感じながら生活し、カウンセリングが進む中で他者と分かり合えない寂しさや周囲の支援や配慮を受け続けている自分自身への苛立ちを表現しています。その後、自分の思いを言葉にする事や職場での対人関係に対する不安や葛藤について語られ続けました。同時に、母親は幼少期に特異な点は無かったものの本人の様子を見て変化に気づいた事やカウンセリングが進む中で親として何もしていなかった事への申し訳なさを語っていました。

自閉症スペクトラム症の特性を強く持つと、自らの感覚の過敏さが見られ、それに伴って外からの影響を避ける事が出来ないために疲弊し、その不安や緊迫感の中で安心した他者関係を築く事に対して困難を感じると言われています。事例の中では、この方の表現する言葉をカウンセラーが待ってくれるという体験によって関係を築く事ができ、家族以外の理解者を得る事が出来ました。


当院では、発達障害の特性を抱える方が集まる就労支援デイケアで、他者との交流から自己理解を深めることや体験を共有すること、自身の気持ちや考えを主張する練習を行うプログラムを行っています。自分の気持ちや体験してきた苦労を共有してみてはいかがでしょうか。

2022年08月15日