第3章 サイコドラマの視点からの自閉スペクトラム症のある人へのアプローチ
以下の文章は、倉光 修 監修・渡辺慶一郎 編著『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』(金子書房,2021年)をスタッフが研修のために要約したものです。今回は当院院長が執筆した章です。出版社の許可を得てホームページ上に掲載しています。また、発達障害で困っている皆さんの参考になるよう、当院で行っていることなどを追記しています。ぜひ、ご一読ください。
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サイコドラマとは、精神科医ヤコブ・モレノが始めた演劇的技法を用いた集団精神療法のことで、日本語では心理劇と訳されます。サイコドラマは患者さんが語る過去の辛かった場面や現在の対人関係を即興劇で再現していきます。中心となる患者さんのことを主役と呼び、主役以外の参加者にも色々な役をやってもらい、全員でその場面を作り上げていきます。ドラマを通して、新たな自分の気持ちに気付いたり、苦労を分かち合ってもらえたりといった体験をします。
サイコドラマは発達障害の治療に有効だと考えられています。大人の発達障害に関する症状の成り立ちとして発達特性があり、対人場面での困難さに対して怒りや劣等感を持ちますが、周りに適応をしようとして怒りや劣等感に蓋をします。その場では適応的な行動を取る事が出来ますが、感情に“蓋をする”という行動が対人場面での困難さをさらに引き起こし、怒りや劣等感を増幅させ、最終的に抑うつ症状が出てきます。これを「負のスパイラル理論」と呼びます。サイコドラマでは参加者全員の力を借りながら感情を安全に表現する事や過去の傷ついた体験を共有し、他者から勇気づけられる経験をします。その経験によって負のスパイラルから抜け出し、他者への怒りや恨み、不信感、孤独感などを緩和する事に繋がっていきます。
当院では心劇会の名の通り、サイコドラマでの治療に力を入れています。当院ではデイケア・外来ともに複数のサイコドラマのグループがあり、多くの患者さんにサイコドラマによるグループ治療を行っております。